絶賛されたスープストックトーキョーの炎上対応【経営理念の一貫性】

【難易度】★★☆☆☆

【この記事では】
スープストックトーキョーの炎上問題を通じて、
経営理念に基づいた一貫性のある対応がいかに重要かを記しています。

出所:Soup Stock TOKYO HP

“食べるスープの専門店”として有名なスープストックトーキョーが、今ネットで大きな話題となっています。
ネット上の理不尽な「炎上」に対する毅然とした対応が絶賛されているんですね。

今回は、スープストックトーキョーの対応は、どのように素晴らしかったのかについてご紹介いたします。

出所:Soup Stock TOKYO HP
【この記事のPOINT】

今回の炎上した経緯について

改めて、一連の経緯を振り返ってみます。

今月4月18日にスープストックトーキョーが「離乳食の無料提供」を発表したことがきっかけです。
育児で大変な世代にとってみれば、大変ありがたい画期的な試みですよね。
ところが、予想に反してSNS上では批判の声が殺到しました。

「狭い店内にベビーカーで無理に特攻する親が続出するよね」
「店内が賑やかになるだろうし、今後、絶対に行かない」

といった声です。

こうした「批判の声」を批判する書き込みも相次ぎ、
まさにネット上は喧々囂々の大騒動となりました。

この騒動を受け、スープストックトーキョーは先週26日に声明を発表しました。
この声明が広報面から最も素晴らしかったのは、「安易に謝罪していない」ということです。

~スープストックトーキョーの声明文~

Soup for all!

ー 離乳食提供開始の反響を受けまして ー

4月25日に開始した「離乳食後期の全店無料提供」の取り組みに対して、さまざまなお声をいただきました。
お声を受けてからの発言を控えておりましたのは、私たちの存在意義について想いを巡らせ、考えを深めていたからです。

改めまして、私たちがどのような想いでこの取り組みをはじめたのか、何を実現したいのかを私たちの言葉でお伝えしたいと思います。

私たちスープストックトーキョーの企業理念は、「世の中の体温をあげる」です。
スープという料理を通じて身体の体温をあげるだけではなく、心の体温をあげたい。
そんな願いを一杯のスープに込めた事業を行っています。

その理念のもと、さまざまな理由で食べることへの制約があったり、自由な食事がままならないという方々の助けになれればと「Soup for all!」という食のバリアフリーの取り組みを推進しています。

~中略~

このたびの「離乳食後期の全店無料提供」は、この「Soup for all!」の取り組みのひとつであり、小さなお子様連れという理由で外食店での飲食をためらう方の助けになればと始めたものです。
一部店舗で実施してきた取り組みでしたが、多くのお客様からご好評をいただき全国の店舗にて開始することにいたしました。

実際にお越しいただいた際には、狭い店内ではサービスが行き届かずご不便をおかけすることもあるかもしれませんが、心を込めてお迎えさせていただきます。どうぞ気兼ねなくご利用ください。

~後略~

通常、こうした「炎上騒動」が起きたときは「お騒がせして申し訳ありませんでした」などと述べることが多いですよね。
“謝らなければならないことはしていないが、頭を下げる姿勢を見せないと沈静化しないとき”に用いられる定型句です。

ですが、今回のスープストックトーキョーの声明には、こうした謝罪のニュアンスはまったく含まれていません。
何も悪いことをしていないため当然ですが、その「当然」を実際に行える企業は案外、少ないのではないでしょうか?

企業理念に基づく一貫性

今回の声明で素晴らしかったのは、「企業理念」と「過去の取り組み」を併せて述べているところです。

~スープストックトーキョー 声明文の続き~

さまざまな理由で食べることへの制約があったり、自由な食事がままならないという方々の助けになれればと「Soup for all!」という食のバリアフリーの取り組みを推進しています。

このように自社の企業理念を記載しているのですが、これだけでは抽象的すぎて漠然とした印象となってしいます。

そして、この企業理念の説明の後には、以下の記載が続きます。

~スープストックトーキョー 声明文の続き~

これまでの取り組みでは、
・グルテンフリーや、ベジタリアン対応スープの販売
・ハラル商品の開発(現在は終売しています)
・咀嚼が困難な方にも外食時のサポートができるよう、咀嚼配慮食サービスの開始
・コロナ禍での医療従事者への食事の無償提供
などを行ってきました。

企業理念の実現のために「口だけではなく、実際に行動してきた」ことを列挙しているんですね。
「抽象的」な理念と「具体的な」行動を併せて記載するのは、文章全体に説得力を持たせるのに大変効果的です。

また、声明の終盤には、以下の記述があります。

~スープストックトーキョー 声明文の続き~

最後になりますが、今回の反響について、改めて私たちの姿勢をお伝えいたします。
私たちは、お客様を年齢や性別、お子さま連れかどうかで区別をし、ある特定のお客様だけを優遇するような考えはありません。

私たちは、私たちのスープやサービスに価値を見出していただけるすべての方々の体温をあげていきたいと心から願っています。皆さまからのご意見を受け止めつつ、これからも変わらずひとりひとりのお客様を大切にしていきます。
世の中の環境の変化が激しい中、社会が抱える課題もさまざまです。それらを私たちがすべて解決できるとは思っていません。でも、小さくてもできることもあるとまじめに思っています。

ひとつひとつですが、これからも「Soup for all!」の取り組みを続けていきます。
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

批判者を切り捨てることなく、批判者の怒りに対し「火に油を注ぐ」事態を避けてもいます。
企業理念に基づく一貫性ある姿勢に、企業の強い想いが感じられます。

顧客層(ターゲット)変化への対応

スープストックトーキョーは創業当初から「ひとりで来店する女性」をターゲットとしており、スープを介して、女性の共感を得ようとしてきました。

そう考えると、「怒りの導火線」に火をつけたのは、スープストックトーキョーに共感してきた「ひとりで来店する女性」の「裏切られた」という想いだったのかもしれませんね。

ではなぜ、スープストックトーキョーは創業当初に「ひとりで来店する女性」に絞っていた顧客像を、「離乳食を求める子ども連れ」にまで広げる施策を打ち出してきたのでしょうか?

今回の「離乳食の無料提供」を告げるプレスリリースを見ると・・・

~スープストックトーキョー 「離乳食の無料提供」を告げるプレスリリースより~

お客さまのライフステージが変わり、ご家族やお子さまと一緒にご来店いただく方も増えてきました。

Soup Stock Tokyoとしてお子さまの成長を一緒に見届けることができればという思い、そしてお父さんやお母さんと一緒に食事の時間を楽しんでいただきたいという思いから、一部の店舗にて離乳食(後期)の無料提供を開始いたしました。

創業期からの ”ロイヤルカスタマー” であった「ひとりで来店する女性」に子どもが産まれ、「ライフステージ」が変わり、店から足が遠のいているという現状。

経営基盤強化のためには、かつての「ロイヤルカスタマー」を呼び戻したい。
そんな狙い、マーケティング戦略が今回の「無料提供」に垣間見えてきます。

ですが、これは企業側の都合だけでなく、
“お客さまのライフステージの変化にも柔軟に対応し、変わらず満足を提供していきたい”
というお客様ニーズへの対応にも繋がっています。

企業の成長とともに、お客さまへの価値提供も向上させていくことは素晴らしいことだと思います。

子育てしやすい社会の実現へ

離乳食の提供自体は、実はスープストックトーキョーにとって初めてのことではなく、2020年、そして2022年と一部店舗で有料販売しています。

従来とは異なる顧客層を呼び込むにあたり、
「既存顧客の離反が起きて、トータルの売上が減らないか」
「子ども連れが増えても、店舗運営に支障はないか」
などを慎重にテストしてきたことが伺えます。
今回、「無料提供」という決断に至ったということは、過去2回のテスト結果は好調だったと想像できますね。

政府が「異次元の少子化対策」を唱えるなど、「子育てしやすい社会の実現」は、日本における喫緊の課題です
今回のスープストックトーキョーの「離乳食無料提供」は、既存顧客の離反を招きかねない「難しい判断」だったかもしれませんが、ぜひ成功してもらいたいと思っています。

また、この理不尽な炎上問題を通じて、経営理念の重要性を再確認しました。
企業内で理念を浸透させるとともに、対外的にもわかるように伝えていく、そうした企業行動が会社のブランドを形作り、顧客の信頼獲得にも繋がっていくと感じました。

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