まず目指すべきは「B/S思考」

【難易度】★★★★☆

【この記事について】
財務会計(数字)に関わる内容であり、苦手意識のある方も多いと思いますが、
結論として「経営者には、1年間の売上や利益という視点(P/L)よりも、貸借対照表(B/S)を理解して戦略を検討する視点が重要」ということを記載しています。

2018年に出版され、会計・財務関連で話題になった本に「ファイナンス思考」(朝倉祐介著)があります。
著者は元マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタント出身で、代表取締役としてミクシィを再建するなど、理論、実務能力とも兼ね備えた経営者の方です。

【この記事のPOINT】

ファイナンス思考とは

ファイナンス思考の主旨は、次の3つに集約されます。

・日本企業の多くは「会社の価値向上」ではなく、目先のP/L(損益計算書)の指標である「売上や利益の最大化」を目的にしており、短絡的な思考が根づいている
※これを「PL脳」と呼んでいます

・経営者は、長期的な目線に立って事業や財務に関する戦略を総合的に組み立て、会社の企業価値を最大限、高めなければならない

・そのためには、価値志向、長期志向、未来志向を特徴とする「ファイナンス思考」を取り入れ、「PL脳」から脱却することが求められている

具体的に「ファイナンス思考」という言葉の意味することは、「将来に稼ぐと期待できるお金の総額を最大化しようとする未来志向の発想」と言えます。

P/L脳とは

一方で、ファイナンス思考の著者である朝倉氏が警鐘を鳴らす、従来型の日本企業の思考である「P/L脳」とは、「目先の売上や利益を最大化することを目的にした短絡的な発想」です。

基礎的な会計知識に基づきつつもファイナンス(本書ではコーポレート・ファイナンスを指す)の観点に欠け、会社の長期的な成長よりも目先の売上や利益を最大化する(PL=損益計算書を良く見せる)ことを目的とする、短絡的な思考態度のことです。

そして、高度経済成長期時代から引きずる、このP/L脳が長く日本企業を蝕んでいると言われています。

高度成長期のように、拡大していく市場についていけばよかった時代であれば、ファイナンス思考は必要なかったかもしれません。

しかしながら、現在は市場が成熟し、先行き不透明な時代になり、未来に対する構想や判断が、以前よりずっと重要になっています。

そのために、外部からお金を調達して、それを先行投資に回し、たとえ赤字が続いても将来の大きなリターンを狙う、といった「ファイナンス思考」の重要性が急速に増しているということです。

確かに、前年以上の売上だけは死守しよう、経常利益を1円でも増益にしようと、決算期末ぎりぎりまで大号令をかける中小企業経営者を多く見かけます。

また経営者だけではなく、メディアや投資家まで、増収増益、減収減益という言葉に代表されるように、P/Lの向上=会社の価値向上であるかのような表現が蔓延しています。

P/Lは見るもの、B/Sは読むもの

しかし、多くの中小企業の現場を見てみると、このファイナンス思考の実践には、まだまだ到達できるような状態ではありません。

P/Lは理解できていたとしても、B/S(貸借対照表)を正しく理解することはなかなか難しいと言われています。

P/Lは眺めて比較するだけで、その概要はわかりますが、B/Sはしっかりと読める力がなければ、その意味するもの、改善方法は見えてきません。
「P/Lは見るもの、B/Sは読むもの」とも言われています。

最終的にファイナンス思考にいきつくために、この前提となるB/Sの理解を深めることが大事だと言えます。

また、

P/L(損益計算書)は“社員全員で作るもの”
B/S(貸借対照表)は“経営者が作るもの”

とも言われています。

P/Lは社員全員が自身の役割を全うすること(目標達成に向けて活動すること)で、売上、利益を上げることになりますが、B/Sの方は、会社の資産をどのように配分していくか、どのように資金を調達するか、という将来を見据えた投資、資源配分に関わるものですので、経営者しか作ることができないものです。

まずは「B/S思考」を目指す

あるメガバンクの方から伺った話ですが、
多くの中小企業経営者が決算後に銀行に決算書を持って、決算説明をしてくれますが、多くの経営者の方が説明するのは、9割がP/Lのお話であり、B/Sについてまったく触れないというのです。
しかし、金融機関は、P/Lではなく、B/Sの報告を期待しています。
なぜなら、企業の存続はB/Sの理解にかかっていると言います。
そして、そのメガバンクの方は、「B/Sの理解とは、半年後の預金残高を言えるかどうか」とおっしゃっていました。
この言葉も非常に重みがあります。

6か月後の預金はいくらあるのか

自社の半年後の預金残高を適切に予測することができるかどうか。ファイナンス思考が長期の未来志向であることを考えれば、半年後のB/Sの状態、少なくとも半年後の預金残高が予測できなければ話になりません。この予測をするためには、少なくとも下記の流れを理解する必要があります。

また、下記の6つの勘定科目について、社長自身が把握、予測を立てられているかも重要です。

・6か月間の損益の適切な予測(売上、粗利益額、固定費)を把握しているか
・月々の借入返済額、追加借入の予定額
・損金にはならない、固定資産への投資額や売却額
・売掛金回転期間、買掛金回転期間から予測される、売掛金、買掛金残高
・棚卸資産回転期間から予測される、棚卸資産の残高
・未払い計上している法人税や消費税の支払い、予定納税の支払い

この6項目の中で、P/Lに関することは1のみで、残りはすべてB/Sの内容です。
この6項目が表現していることは、つまり、キャッシュフロー計算書の動きであり、資金運用計画表で把握すべき内容なのです。

“利益が6か月間で1,000万円増えるから、6か月後はキャッシュも1,000万円増えるだろう”といった誤った感覚では、金融機関からの信頼を得られないばかりか、目先の資金繰りにも困ることになってしまいます。
そのために、B/Sを読める、そしてB/Sを改善できるようになり、ファイナンス思考実践の第1歩にしていくことがとても重要ですね。

【参考書籍】

Please share!
  • URLをコピーしました!
【この記事のPOINT】