誰もがコントロールされている!?思考のゆがみ【プロスペクト理論】

【難易度】★★★★☆

【この記事では】
・2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学の「プロスペクト理論」について記載しています。
・「プロスペクト理論」は「人は損失を回避する傾向があり、状況によってその判断が変わる」という意思決定に関する理論です。

先ほど「Amazon週末限定!ポイント還元セール」という文字を見つけて、ついつい買い物をしてしまいました。
しかしその後、セール対象要件が“Amazonカードで支払うこと”、だったらしく、今回の買い物が適用対象外だったことを知り、後悔している真っ最中です・・・。

これはまさに、今回のテーマであるプロスペクト理論に関連する出来事でした(汗)。

【この記事のPOINT】

行動経済学とは?

「プロスペクト理論」の本題に入る前に、考え方のベースとなる「行動経済学」について触れさせていただきます。

「行動経済学」とは、経済学と心理学をミックスした学問で、人間の行動の不合理性・心理的な側面に着目した経済現象の研究を行うこと。

従来の経済学における前提は、「人間はつねに合理的な行動を取る」でした。
一方、行動経済学の前提は、「人間は合理的な行動を取らない」になっており、複雑化した現代社会にあった経済学として注目を集めています。

本日の私も、普段であれば購入しないものを“セール”という文字につられて購入した行為も、合理的判断とは言えませんでしたね。

プロスペクト理論の概要

「プロスペクト理論」とは、1979年に行動経済学者であるダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏によって提唱された理論です。

不確実な状況下で意思決定を行う際に、事実と異なる認識の歪みが作用するという意思決定モデルを表した理論であり、2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学の考え方です。

認識の歪みの簡易的な例としては次のようなものがあります。

【A】 何もしなくても5,000円がもらえる
      or
【B】 50%の確率で10,000円がもらえるが、50%の確率で何ももらえない

という選択肢があった場合、皆さんはどちらを選びますか?

研究の結果、多くの人は【A】を選ぶようです。

次は逆に”支払う”場合で、

【C】 何もしなくても5,000円を支払う
      or
【D】 50%の確率で10,000円を支払うが、50%の確率で支払い免除

という選択肢があった場合はどうでしょう?

多くの人は【D】を選ぶようです。

上の例において、

AとBの期待値は共に5,000円

CとDの期待値は共に-5,000円

と対等であるにもかかわらず、人が魅力的に感じる選択肢には偏りが生まれています。

これは、意思決定には客観的事実のみでなく置かれた状況も作用するため、ある種の感情などが「ゆがみ」をもたらし、合理的な意思決定がなされないことを表しています。

プロスペクト理論では、
人の意思決定時には「損失回避的な選択肢を過大評価する」傾向がある
と言われています。

プロスペクト理論とは、このような一見不合理な人間の意思決定を説明するための理論で、経済学と心理学によって成り立つ行動経済学の基礎となる考え方です。

実務面に落とし込むと、

営業やマーケティングの分野では顧客にさまざまメリットを提示して顧客の意思決定を促進しますが、
顧客が最終的な意思決定をおこなうタイミングでは、
必ずしも、
“与えられる期待値の大きさ”がそのまま
“意思決定の確率”に比例するわけではないということになります。

プロスペクト理論の2つの柱

プロスペクト理論における”損失を避けたいという心理”は、さらに「確率加重関数」と「価値関数」の2つに分類されています。

・確率加重関数

「確率加重関数」とは、何か難しそうな用語ですが、勘単に言うと
人は、確率が低いときには大きく評価し、
確率が高いときには評価を小さくする
ことを
表した関数表現です。

具体的には、
宝くじに当選する確率や手術に失敗する可能性が、確率加重関数によく表れています。

宝くじに当選する確率は非常に小さいものですが、当選した時のことを大きく評価する傾向にあります。
購入する方が後を絶たないのは、確率加重関数が関係しているためです。

人間は実際の確率よりも主観性を優先して、宝くじの購入を決めていると言えます。

・価値関数

プロスペクト理論を体系立てる2つ目の軸が、「価値関数」と呼ばれるものです。

「価値関数」は価値の感じ方のゆがみを表したグラフであり、価値の大きさと心理作用を表しています。

出所:https://studyhacker.net/prospect-theory

5万円を儲けた場合と5万円を失った場合では、損失を被ったショックのほうが強く感じるとされています。

価値の大きさによって感じ方は異なりますが、少額であれば損失感が優先されるということです。

プロスペクト理論から生まれる3つの心理作用

次に、プロスペクト理論から生まれる3つの心理作用(心理状態のゆがみ)を紹介いたします。

・損失回避性

「損失回避性」とは、人がモノを選ぶ際の慣習を指し、利益を得ることより損を回避することを選ぶ傾向があることを意味しています。
この損失回避性を活用した提案は、株取引などの場でよく用いられます。
「この株を購入することで年間〇万円の利益を得られる」というよりも、
「損をしないための手堅い株である」と表現することが、損失回避性を上手に活用した提案といえます。

・参照点依存性

「参照点依存」とは、人がモノを選ぶ際に、絶対的な選択基準をもっているわけではないことを表しています。
100円の品物を選ぶ場合でも、定価が100円のものと120円から割り引かれて100円になったものでは、割り引かれた品物のほうが多く選ばれるのです。
同じ価値がある品物でも、「お得」というバイアスがかかることで、選択するものを相対的に変化させることがわかります。

・感応度逓減性

「感応度逓減性」とは、同じ価値のある利益や損失でも、その母数が大きくなるほどに感度が鈍くなる心理作用です。
1000円の株を100株購入した購入したがその株が900円の価値になった場合と、
10000円の株を100株購したがその株が9900円の価値になった場合を比較してみると、
前者の損失のほうが痛手であると感じやすい傾向にあります。

このような、損失の母数によって感じ方が異なることを、「感応逓減性」といいます。

プロスペクト理論が使われている身近な事例

ここでは、プロスペクト理論をよりわかりやすく理解するために、身近にある例を紹介していきます。

・期間限定

プロスペクト理論の身近な例としてまず挙げられるのが、「期間限定キャンペーン」です。

オンラインショップやテレビCM、店内の広告で頻繁に目にしている方も多いのではないでしょうか。

この記事の冒頭に触れた私の例も、こちらに該当しますね・・・。

実はこの期間限定キャンペーンも、プロスペクト理論を用いたマーケティング手法の1つです。 「いつでも購入できる1万円のワイン」も、頭に「期間限定」というワードがつくだけで、人はワインの本当の価値が見えにくくなります。

冷静に考えれば、よほど希少な原材料を使っていない限り、今しか買えないということはありませんが、期間限定という言葉がその事実をゆがめてしまうんですね。

・無料・割引キャンペーン

期間限定の派生ですが、「無料・割引キャンペーン」もプロスペクト理論を上手に活用した事例です。

損失回避の心理が働き、「このタイミングを逃すと損をするかもしれない」と意思決定のきっかけに繋がりやすいことが分かっています。

一方で、年中閉店セールをやっていたり、いつ見ても何かしらのキャンペーンを実施していると、このキャンペーンの効果が狙い通りに作用しない可能性があるので、実施するタイミングには注意が必要です。

・コピーライティング

テレビCMなどで顧客に強い恐怖を与えず、それとなく損失を提示するといった形で、プロスペクト理論が「コピーライティング」に活用されています。

ある清涼飲料水が暑い季節だけでなく、乾燥する冬のシーズンでも人気である理由もプロスペクト理論が上手に活用されているためです。

「暖房によって空気が乾燥しているかどうか」という事実ではなく、乾燥するリスクがあることを提示し、顧客の心理作用を活用していると言えます。。

・優遇情報

「〇〇を見たと言っていただいた方は半額」・「2個頼むと1個無料」といった優遇情報も、プロスペクト理論を活用した事例です。

根底にある心理変化は全て同じなので、優遇情報も損失回避の心理に働きかけています。

・ポイント付与

家電量販店や決済サービスなどで目にすることの多い「ポイント付与」も、プロスペクト理論を活用した手法です。

貯まっているポイントを使わないと損という思考を利用して、顧客の再来訪を促しています。これをさらに活用しているのが有効期限付きのポイントです。
期限が切れる前にポイントを使わないと損という心理になり、その時に何か欲しいものが特になくても購買に至ってしまうことがあります。

・返金保証・修理保証

家電量販店でよく見る「返金保証・修理保証」などもプロスペクト理論を活用しています。

特に家電のような高額商品では、「すぐに壊れたらどうしよう」という不安がつきまとうので、修理補償という特典が効果的に作用するのです。
また、コロナ禍で旅行代金のキャンセル代の負担なしなども、同様の効果を狙ったものと言えますね。

プロスペクト理論を活用するには、紹介した事例を念頭に置きながら、他社の事例などを研究して、自社のマーケティングなどに反映させることが重要です。

他社と同じ方法でアピールしても、顧客の印象に残らない可能性があります。

自社の魅力を最大限アピールするためにも、
「人は常に合理的ではない」という前提を理解し、プロスペクト理論を踏まえたマーケティング活動も重要かと思います。

【参考文献】

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