【難易度】★★★★★
ブランディングデザインの第一線で、さまざまな企業案件に携わってきた西澤明洋氏(エイトブランディングデザイン代表)の記事がNews Picksで取り上げられていました。
「経営」という目に見えないプロセスや概念を、「デザイン」でビジュアル化する力、についてです。
西澤氏は、日本に眠る優れた技術やサービスとデザイン経営をかけ合わせれば、唯一無二のブランドに大化けする可能性がある、そして、デザインを経営に応用することは、日本企業が再成長するうえで欠かせない、との主張をしています。
「ブランディング」に関して、オリジナリティ溢れる考え方でしたので、若干抽象的で理解しづらいテーマかもしれませんが、興味ある方は読んでいただけると幸いです。
「デザイン」とは?
「デザイン」といえば、アップル製品、北欧家具、またはダイソンやバルミューダの家電を思い浮かべるかもしれません。

西澤氏が考えるデザインの定義は、
色や形を決める造形、またはビジュアルで訴えるデザインは「狭義」のデザイン
それに対して、「思想」や、物事の背景にある「構造」、「プロセス」など、目に見えないものも対象とする「広義」のデザイン
と区分しています。
もっとわかりやすく表現すると、
「かっこいい」「美しい」といった ”具体的” なモノやビジュアルを指すのが「狭義のデザイン」
思考や背景構造、プロセスといった ”抽象的” なものが対象なのが「広義のデザイン」
さらに、シンプルに表現すると
狭義のデザインは「感じるデザイン」
広義のデザインは「考えるデザイン」
といったところでしょうか。
ブランディングデザインは、狭義のデザインのみならず、広義のデザインにもかかわります。
ブランディングというと、商品パッケージやブランドロゴをはじめとする狭義のデザインに注目が集まりがちですが、ブランディングする際に、その会社の経営理念などと、切っても切り離せない関係にあることもあります。
つまり、ブランディングを考える場合は、経営理念の再定義や経営方針の転換など、経営の大本の次元からデザインする必要があると言えます。

「ブランディング」とは?
そもそも「ブランディング」とは何でしょうか?
西澤さんの表現を借りると「差異化」とのこと。
より厳密には、
となります。
つまり、他社が提供する商品と「違いを生み出す」ことです。
「差別化」と近い概念ですね。
つまり、ブランディングとは、
△:「プレミアム感」、「親しみやすい」といったイメージ作りにとどまらず、
〇: 他との「違い」を作ること
と言えます。
なぜ、「違い」が重要なのでしょうか?

仮に消費者にとって有用なものであっても、その価値(価格)は「競合製品」の存在次第で変わります。
例えば、需要が伸びていても、競合製品も数多く存在すると、価格競争が起きます。
結果、企業の超過利潤(利益)は限りなくゼロに近づく・・・それが経済理論の原則です。
価格は需要と供給で決まりますが、価格競争にならず、独占・寡占によって供給を支配できれば高い利潤を手にすることができます。
ところが、多くの人は、「売れそうな商品は何か」、「伸びる市場はどこにある」という発想に偏りがちです。
その考え方だと、他社と同じ土俵で戦い、価格競争に自ら飛び込んでいくことになりますね。

「ブランディング」の目的
西澤氏曰く
ブランディングの目的は、いかにしてその違いを「伝える」か
それも自社の発信だけではなく、人(顧客)から人へ伝える「伝言ゲーム」とのこと。

これまで説明したデザインと経営の関係を図としてデザインしたもの、つまりフレームワークにしたものがあります。
それが、西澤さんが考案した「MCC」という概念です。

出所:エイトブランディングデザイン
ブランディングデザインとは、この【M】マネジメント、【C】コンテンツ、【C】コミュニケーション、に縦串を通して整合させることを示しています。
どれか1つの層だけを考えていては、ブランディングデザインとは言えないということですね。
MCCの中で、最初に考えるべきが、一番上流の【M】マネジメントです。
川の流れに例えると、上流に当たる経営方針の方向性を変えると、下流に当たる【C】コミュニケーション(商品やロゴ)はより大きく変わります。
上流の流れを変えるというのは、
例えば、
・顧客ターゲットを変える
・B2CビジネスをB2B向けにする、またはその逆にかじを切る など
経営方針の転換を指します。
逆に、下流のブランドロゴだけを変えても、大きな変化を望むことはできないということになります。
「ブランディング」と「戦略」の交差点
広義のデザインには、目に見えないプロセスを図にして一目で理解することが含まれます。
西澤さんがブランディングデザインのプロセスをデザインした「フォーカスRPCD」という概念があります。

出所:エイトブランディングデザイン
要点だけ紹介すると、
■「F:フォーカス」 勝負する領域を絞り込み、
■「R:リサーチ」 まずは自社をよく理解し、
■「P:プラン」 経営戦略を立案する
■「C:コンセプト」 ブランドコンセプトを構築し、
■「D:デザイン」 デザインを統一する
第一に、フォーカス(集中)するとは、「やらないこと」を決めることでもあります。
第二に、リサーチやプランでは、市場や他社の動向を調べるだけでなく、「自らを深く理解する」ことがポイントとなっています。
これらは経営戦略や競争戦略の観点で、とても理にかなったものです。
そこで、経営の観点から、4つのポイントを紹介します。
①ありたい姿を描く
近年、「パーパス経営」が流行しています。
パーパスとは「存在意義」。
社会環境が変化する中で、改めてその会社の意義を問い直す企業が増えています。
一見、当たり前のことですが、人間というものはどうしても成功事例、いわゆる「ベストプラクティス」から学びを得たいと思う傾向があります。
しかし、それだけでは他社とやることが同じになってしまい、差異化できません。
まずは自社の原点を見つめなおし、向かうべき姿を定めます。
②資源は集中投下
戦略とは、「何をやらないかを決める」こと。
経営戦略の大家、マイケル・ポーターの言葉です。スティーブ・ジョブズも生前、「何をしないかを決断する」ことの重要性を語っていました。
限られた時間や資金、人材という経営資源(リソース)の「制約」がある中で、「あれもこれも」の発想では、資源が分散してしまいます。
だからこそ、フォーカス(特定のものに集中すること)が必要となります。
「同じ水量(経営資源)でも、活動範囲をフォーカスして絞れば、水位(ブランドの強さ)が高くなる」というのが、西澤さんの持論です。

出所:エイトブランディングデザイン
ブランディングにおいて「何でも優れています」のスタンスでは、伝えることが不明確。
伝言ゲームも機能しません。
ちなみに、西澤さん自身は独立当時、「ブランディングデザイン以外の仕事はやらない」と決めたそうです。
③戦略×組織
競争戦略やマーケティングでおなじみの「ポジショニング戦略」があります。
先ほどのMCCのうち、Mのマネジメントの領域に相当します。
仮に、他社とは一線を画したポジションにシフトできたとします。
例えば、「女性向けとされていた業界で、男性向け商品を出す」、「ビジネスパーソン対象の業界に、ファミリー層を呼び込む」など。
こうしたポジショニング戦略が奏功すれば、「先行者利益」を獲得できます。
ただし、それを見た他社は当然、似たような商品を販売してくるようになります。
例えば、コンビニコーヒー、ストロング系チューハイ、2022年にヒットした炭酸飲料入りボトル、チューナーレステレビ…各社が似たような商品を出しています。
ヒット商品はまたたく間に模倣されるのです。
そこで、重要になるのが企業が持つ「固有の強み」。
人材の能力や、保有特許や技術、営業力などで差異化する(希少性を持つ)ことです。
他社が模倣しようとしてきたとしても、自社が持つ販売ネットワークの充実ぶりや、アフターサービスの充実度の違いによって、他社に「完コピ」ができないようにすることです。
「組織能力」の世界であり、経営戦略でいうところの「リソース・ベースド・ビュー(=会社が持っている内部資源に目を向ける考え)」の分野に相当しますね

出所:エイトブランディングデザイン
まとめると、
・上流のMのマネジメントでポジショニング戦略による違いを作る。
・次に下流のCC、すなわちコンテンツとコミュニケーションで、「きめ細かく差異化要因を埋め込む」ことで、模倣を困難にする
という構図です。
④固有の強み
最後は、自社の固有の強みについてです。
数多くのブランディングデザインを手がけた西澤さんによれば、ある会社の強みが10点あったとすると、8、9点は他社も持っている強みであるケースが多いとのこと。
そこで、「良いところ探し」だけでなく、「違うところ探し」を考えることが重要です。

出所:エイトブランディングデザイン
「良いところ」と「違うところ」が重なる領域…ヒントは、自社の「当たり前」にあります。
「自社の常識は、他社の非常識」という言葉があります。
これは「自社のやり方が他社で通用しない」という悪いニュアンスを持つこともあります。
ですが、逆にとらえると自社では「できて当たり前」のことが、他社にとっては「難しい」、「手間がかかりすぎる」こともあると言えます。
その一例として、直販体制、つまり、自社で販売ネットワークを持っている場合などがあります。
営業でお客さんに直接ブランドの価値を説明できるので、コミュニケーションのCの戦略で他社と差異化できます。
このほかにも、原材料を自社で作っている、または「秘伝のたれ」を持っていれば、他社は真似して作ることが困難。コンテンツのCで差異化する際に有効ですね。
多くの日本企業は顧客と競合他社のCについては精密に分析しているものの、自社のCについてはあまり分析できていないと言われています。
競合会社の「隣の芝生が青く見える」ことにとらわれるよりも、内に存在する「固有の強み」にも、しっかりと目を向けることが重要かと思います。
デザイン経営については、次の記事に続きます。

