MBA取得時の修士論文⑤(事業承継専門家へのインタビュー)

【難易度】★★★★★

~第5章 事業承継専門家へのインタビュー(連携スキーム構築に向けた調査)~

【この記事では】
・私がMBA認定を受ける際に書いた修士論文⑤を掲載いたします。
・普段「わかりやすく」を意識して記事を書いておりますが、今回は学術的な論文であるため、気軽に読める内容ではなく、読み物としては堅苦しく、読みづらい点ご容赦ください。

【この記事のPOINT】

第1節 インタビュー調査概要

第1項 調査目的・内容

本章では、第4章における考察を通じて、リサーチ・クエスチョエンと研究仮説を設定し、調査を行う。
本研究では、「税理士」と「中小企業診断士」のそれぞれ公平な観点から調査を行うため、リサーチ・クエスチョンと仮説も両観点から設定する。

(1)リサーチ・クエスチョンの設定

 クエスチョン1(税理士に対するクエスチョン)
 「事業承継支援を行う税理士が、中小企業診断士と連携する機会が少ない理由は何か?」

 クエスチョン2(中小企業診断士に対するクエスチョン)
 「中小企業診断士が理想の事業承継支援を行うために重要な要素は何か?」

(2)研究仮説の設定

研究仮説1-1(税理士の観点)

「税理士が中小企業診断士と連携する機会が少ない理由は、事業承継を通じた経営革新支援等のコンサルティングはライセンスが不要であるため、税理士が単独で対応することが可能であるからである。一方、税理士単独で経営コンサルティングをすることに限界を感じることが多く、中小企業診断士との連携ニーズはあると考えている。」

研究仮説1-2(税理士から見た中小企業診断士に対する理由)

「税理士が中小企業診断士と連携する機会が少ない理由は、中小企業診断士が扱う業務範囲が広く、専門分野が把握しづらく、連携するイメージが湧かないことが原因である。そのため、中小企業診断士のブランディング、得意業務の外部発信を積極的に行うことで、税理士との連携機会は拡大できる。」

研究仮説2-1(中小企業診断士側の要素)

「中小企業診断士が理想の事業承継支援をするためには、事業承継を行う企業に対して“早期”から支援に関わることが重要であり、その実現のためには、税理士等の専門家とのネットワーク構築が重要である」

 研究仮説2-2(中小企業診断士側の要素)

「中小企業診断士が理想の事業承継支援をするためには、事業承継を行う企業に対して“経営革新支援”に携わることが重要であり、その実現のためには、事業承継をきっかけとした経営革新(経営承継、後継者育成含む)の重要性について、現経営者の理解が重要である」

第2項 調査対象者

調査対象は「事業承継支援をメインとしている中小企業診断士」、「事業承継支援をメインとしている税理士」とする。インタビューの公平性を保つ観点から、中小企業診断士については、東京都事業承継促進事業を通じて、事業承継支援専門家を紹介してもらい、税理士については、TKC全国会と大同生命保険を通じて、事業承継を専門に取り扱っている専門家を紹介してもらった。

第3項 調査の具体的方法

調査対象者は「事業承継支援を専門としていること」と限定していることから、量的研究に必要なサンプル数確保が困難であること、また、中小企業診断士を起点とした専門家間の連携に関する先行研究がほとんどなく、リサーチ・クエスチョンの内容を解明するためには、インタビューによる調査が最適と考え、インタビューを通じた質的研究、半構造化面接にて実施する。

インタビューのガイドラインとして設定した質問項目を事前に確認いただき、自由質問法を採用して実施した。

インタビューの内容は、事前に了解をいただいたうえで録音し、筆者が文字化したうえでSCAT分析を行った。分析においては、大谷(2007, pp.31-35)が示したステップ・コーディングと理論化の手続きに基づき実施した。
インタビューのガイドラインとして設定した質問内容は中小企業診断士と税理士、それぞれ下記の通りである。

① 「事業承継支援を専門としている中小企業診断士」に対するインタビュー項目

【業務内容の確認】

■現在の業務内容(専門分野)
■事業承継支援状況
■クライアントから業務依頼を受ける経由(どのような経由で業務の依頼を受けているか)
■事業承継支援業務の範囲(事業承継ガイドラインのステップ「①必要性の訴求」「②経営状況の見える化」「③磨き上げ」「④事業承継計画策定」「⑤事業承継後の後継者支援」)※上記①~⑤の他、「後継者育成」「経営革新支援」に携わっているかを確認
■事業承継支援にあたり、専門家との連携状況(連携している専門家、人数)
■外部専門家に依頼する業務内容
■事業承継支援を起点として、他の業務に支援対象を拡げているか

【事業承継支援における中小企業診断士の役割】

■事業承継支援において、相談相手として中小企業診断士が少ない原因について
■連携する他の専門家へ提供できるメリットは何か
■業務支援タイプ(顧問契約型、プロジェクト型 等)
■顧客獲得方法
■連携専門家の探し方
■現在連携している専門家との連携するに至ったきっかけ(紹介、知り合い、インターネット、会合を通じて 等)
■連携時の報酬形態・報酬割合について
■事業承継以外の関連業務と必要となるスキル・知識
■事業承継支援における成功事例・失敗事例

【事業承継支援に対する考え方】

■事業承継支援において重要なことは何か
■後継者に必要な能力は何か
■事業承継支援において障害となることは何か(業務の進め方、相手先企業の人間関係への配慮 等)
■認識している事業承継支援における今後の課題

② 「事業承継支援を専門としている税理士」に対するインタビュー項目

【業務内容の確認】

■現在の中心的業務内容(専門分野、コンサルティング業務の有無)
■事業承継支援状況(具体的支援内容、支援企業規模 等)
■クライアントから業務依頼を受ける経由(どのような経由で業務の依頼を受けているか)
■事業承継支援業務の範囲(中小企業診断士が他専門家よりも支援貢献度が高いと思われる分野である、「後継者育成」「経営革新支援」に携わっているかを確認)
■事業承継支援にあたり、専門家との連携状況(連携している専門家、人数)
■外部専門家に依頼する業務内容、依頼するタイミング、依頼する際の取り決め事

【事業承継業務を行っている税理士から見た中小企業診断士について】

■中小企業診断士との業務連携状況
■中小企業診断士に対して抱くイメージと中小企業診断士との連携が少ない原因
■業務支援タイプ(顧問契約型、プロジェクト型 等)
■顧客獲得方法
■連携専門家の探し方
■現在連携している専門家との連携するに至ったきっかけ(紹介、以前からの知り合い、インターネット、会合を通じて、前職の繋がり 等)
■連携時の報酬形態・報酬の取り決め方法について
■事業承継以外の関連業務と必要となるスキル・知識
■事業承継支援における成功事例・失敗事例

【事業承継支援に対する考え方】

■事業承継支援において重要なことは何か
■後継者に必要な能力は何か
■事業承継支援において障害となることは何か(業務の進め方、相手先企業の人間関係への配慮 等)
■認識している事業承継支援における今後の課題

第2節 インタビュー調査結果

第1項 税理士へのインタビュー調査結果

事業承継支援を専門とする税理士3名にインタビューを行い、SCAT分析を通じて導き出した「構成概念」をもとに下記の通り「理論記述」としてまとめた。(インタビュー調査結果の詳細、SCAT分析過程は本論文「インタビュー調査結果」参照)

リサーチ・クエスチョンへの回答

研究仮説1-1(税理士の観点)

「税理士が中小企業診断士と連携する機会が少ない理由は、事業承継を通じた経営革新支援等のコンサルティングはライセンスが不要であるため、税理士が単独で対応することが可能であるからである。一方、税理士単独で経営コンサルティングをすることに限界を感じることが多く、中小企業診断士との連携ニーズはあると考えている。」

回答1-1(SCAT分析に基づく理論記述)

・そもそも経営承継について企業からの支援ニーズがないため、支援内容は資産承継のみとなっている。
・支援要請があったとしても、税理士資格取得時に体系的に学習していないため、大半の税理士は経営承継に対する知識を持ち合わせているとは限らず、資産承継中心の支援となっている。
・経営計画は、事業承継税制の要件充足を目的とした簡易的なものにとどまっている。

研究仮説1-2(税理士から見た中小企業診断士に対する理由)

「税理士が中小企業診断士と連携する機会が少ない理由は、中小企業診断士が扱う業務範囲が広く、専門分野が把握しづらく、連携するイメージが湧かないことが原因である。そのため、中小企業診断士のブランディング、得意業務の外部発信を積極的に行うことで、税理士との連携機会は拡大できる。」

回答2-2(SCAT分析に基づく理論記述)

・中小企業診断士の得意業務の外部発信不足はあるものの、連携する以前に、企業から経営承継支援ニーズがない状況である。現経営者に対して経営承継に取り組むことの重要性を訴求していくことが課題。
・他専門家と連携して協同セミナーを開催し、顧問先企業の税務・会計以外の支援ニーズを喚起する活動は効果的。
・中小企業診断士がどのような事業承継業務に携わっているのか把握できておらず、連携対象として認識していない。
・中期経営計画を作成する際、戦略立案(商品・市場戦略や理念策定、組織体制等)に関してどのように計画に落し込めばいいのか迷う時が多く、顧客に対して最適なアドバイスができているかが不安なケースが多い。顧客の経営支援に役立つのであれば、中小企業診断士等外部専門家と連携する意味合いは大きく、今後検討していきたい。
・後継者は将来のことを考え、事業承継には積極的に取り組みたい意向を持っている。一方、現経営者にとって事業承継はあまり考えたくないテーマであり、先延ばしする傾向が強いため、現経営者へ「早期に経営承継に取り組む意義」を理解してもらうことが重要。

第2項 中小企業診断士へのインタビュー調査結果

事業承継支援を中心に活動している中小企業診断士3名にインタビューを行い、SCAT分析を通じて導き出した「構成概念」をもとに下記の通り「理論記述」としてまとめた。

リサーチ・クエスチョンへの回答

研究仮説2-1(中小企業診断士側の要素)

「中小企業診断士が理想の事業承継支援をするためには、事業承継を行う企業に対して“早期”から支援に関わることが重要であり、その実現のためには、税理士等の専門家とのネットワーク構築が重要である」

回答2-2(SCAT分析に基づく理論記述)

・公的機関の業務を除き、直接新規顧客と関わる機会が、税理士と比べて大幅に少ないため、中小企業にとって身近な相談相手である税理士とネットワークは重要である。

研究仮説2-2(中小企業診断士側の要素)

「中小企業診断士が理想の事業承継支援をするためには、事業承継を行う企業に対して“経営革新支援”に携わることが重要であり、その実現のためには、事業承継をきっかけとした経営革新(経営承継、後継者育成含む)の重要性について、現経営者の理解が重要である」

回答2-2(SCAT分析に基づく理論記述)

・事業承継対策において経営承継(後継者育成、次世代の経営体制構築、経営革新)は時間がかかるため、早期から取り組むことが必要。
・経営承継(経営革新)支援において、中小企業診断士と税理士には相補関係があり、連携することで顧問先企業の経営改善にも繋がることから、税理士にとってもメリットがある。
・経営承継支援においては、早期関与、現経営者在任中から長期に渡る支援が効果的。
・現経営者の理解を通じて、早期に経営承継に取り組めるようにすることが重要。

第3項 インタビュー調査結果の全体像と考察

ここでは、インタビュー調査結果の全体像について考察していく。図表 5 1は前項までのインタビュー調査結果の全体像を図にまとめたものである。

インタビューから判明したことは、税理士の多くは経営承継に関する支援は行っていない、もしくは行っていたとしても資格取得過程で体系的な学習は行っていないため、税理士単独で支援するには不安があるということである。

企業から事業承継支援があるケースの大半が、相続や先代経営者の勇退時期が近いことによる資産承継の相談であり、経営承継に対する企業からのオーダーはないという状況である。クライアントである企業にとっては、資産承継と異なり、経営承継は自社内で取り組んでいることが大半であり、外部専門家に依頼する選択肢が浮かばないという傾向が伺える。

中小企業診断士との連携については、必要性がないとは考えておらず、クライアントから経営承継のオーダーがないことが原因であり、税理士として経営支援するための知識は持ち合わせている人は少ないとの考えであった。

中小企業にとって身近な相談相手である税理士を通じて、経営承継に関する潜在ニーズを引き出すこと、また、中小企業診断士に紹介するスキームを通じて、早期関与に繋げられる可能性があることがわかった。

また、現経営者は事業承継に対する意識が低いことが多く、事業承継が近くなり、必要に迫られて依頼に至るケースが大半である。一方、後継者は将来の経営不安や、自社株承継時に贈与税や相続税を負担する当事者となるため、現経営者よりは意識が高いが、なかなか後継者から言い出せず、取組みが遅くなる傾向が判明した。現経営者に対して、事業承継への早期取組みを促すことが重要であると考える。

今回、税理士へのインタビューを通じて、「経営承継、経営改善計画等の業務にも携わっているが、制度利用時の要件を充足するための一貫で作成していることが多い」との回答があった。図表 5 2は事業承継税制利用時に提出必須となる特例承継計画書であるが、経営計画といっても直近5年間の簡易的な計画書となっている。

本来、事業承継計画の策定目的は、円滑な承継に向けて現経営者と後継者が何をすべきかを明確にすることにあるが、当該計画書のみでは、その目的を果たすには不十分であり、別途作成支援する必要性は高いといえる。

河合(2015, p.67)は「経営の4要素」として、「ルール(法律)」、「数字(会計)」、「ヒト(人事)」、「ビジネス(経営)」をバランスよく考慮しながら経営することの重要性を述べている。

【経営の4要素】
①「ルール」 法律やコンプライアンス、社会規範等
②「数字」 税務・会計や経営の定量的要素全般
③「ビジネス」 経営戦略立案~実行や運営管理等
④「ヒト」 社内の組織・人事や外部取引先等を含む

図表 5ー3は支援すべき専門家の立ち位置を示しており、中心の「会社経営」を頂上とした山のような立体図として捉え、対極に位置する要素(「数字」と「ヒト」、もしくは「ビジネス」と「ルール」)は互いの存在が見えず、どちらかに偏ることで、会社経営が根本から崩れるリスクを負うとしている(河合, 2015, p.104)。
つまり、会社経営者は中心の山の頂上に立ち、経営全般を見渡しながら判断していくことの重要性を示している。

一方、支援する専門家の立場から見た場合、4要素をそれぞれ体系的、かつ横断的に学習している中小企業診断士は、他の専門家と比べってバランスよく経営支援できる強みを持っているといえる。

事業承継で発生する「税務」「法務」等の資産承継に関する問題解決だけでなく、もっと本質的な支援、つまり図表 5 4のように、「企業の持続的発展に繋がる経営支援」に携わり、事業承継を契機とした「両利きの経営」の重要性を訴求していくが重要であることが、今回のインタビュー調査結果で確認できた。

第4項 インタビュー調査結果を踏まえた先行研究レビュー

インタビューを通じて判明した、「現経営者の事業承継に対する意識が低く、経営承継に関する支援ニーズがないこと」、「事業承継に取り組む早期の段階から関与することが重要であること」を考慮すると、中小企業経営者に対して、事業承継に早期着手することの重要性を啓発していくことが今後の課題となる。
税理士Bと税理士Cのインタビュー結果から、他の専門家と連携したセミナー開催が初期段階におけるニーズ喚起に効果的であることが伺えた。
ここでは、先行研究を通じて、専門家間で連携しながら初期段階のニーズ喚起に取り組んだ事例を2つ取り上げる。
一つめは、中小企業診断協会(2008, p.15)「税理士との連携による中小企業の経営革新」の東京都内に事務所を有する税理士事務所と中小企業診断士の連携事例である。
税理士事務所の従業員数は約25名(従業員の多くは、将来税理士になることを目指して勉強中)、顧問先は医療機関を中心に約300件を抱えている比較的規模の大きい事務所であり、一般的な税理士事務所と同様に巡回訪問による記帳業務、決算事務を主体としている。
昨今の激しい環境変化を踏まえ、経営コンサルティング業務等で付加価値の高いサービスを提供したいと考えていたものの、税務・会計に関すること以外の分野については、人材育成が困難という状況に直面していた。
実際に経営相談を行ってみても、最終的には資金繰り改善、売上向上、費用削減といった会計に関するアドバイスにとどまってしまう状況であった。
このような経営課題を抱えている中、経営に関する幅広い専門知識とアドバイス能力を持つ中小企業診断士との連携により、下記の協同セミナーを開催した。

実施内容:協同セミナーの開催 「歯科医院活性化セミナー」
①医療理念を通じたスタッフの意識改革 中小企業診断士
②ホスピタリティマインドを活かした接客 中小企業診断士
③早期ハッピーリタイアメントの秘訣 税理士

実施した効果として、参加者からコンサルティングの依頼があり、税理士事務所にとっては、従来の記帳代行等の枠を超えたサービスを提供できることで他事務所との差別化が図れたこと、また、顧問先企業の経営改善を通じて、さらなる発展に繋がる効果が見込めるとしている。
また、中小企業診断士は税理士事務所のような安定的な顧客基盤を保持していないことが一般的であり、このような場を通じて、早期段階からコンサルに関わる機会にも繋がる。
その後も税理士、中小企業診断士、社会保険労務士等の専門家が毎月1回定期的に集まり、今後の活動計画を練っており、この連携において最も重視することは、「信頼関係」であり、しっかりとしたコミュニケーションをとり、お互いがWin-Winの関係を構築したことが成功要因といえる。
2つめの事例は、事業承継ニーズを引き出すための「セミナーテーマ」についてである。
中小企業診断協会神奈川県支部では、事業承継について認識が薄い企業経営者に対して、できるだけ早期に検討、準備してもらうための啓発活動について調査を行っており、その中でも、金融機関や税理士と連携しながら、中小企業向けの啓発セミナー開催の重要性について述べられている(2012, p.32)。しかしながら、事業承継は経営者にとっては「自分がいない将来」を考えることであり、向き合いたがらないテーマであるため、参加率が低くなる傾向が明らかになっている。そのため、「事業承継」という名称やこの問題を直接取り上げるテーマは避け、別テーマ(経営診断、経営革新、経営計画の策定等)で誘導する方法の有効性を取り上げている。将来を見据えた経営に関する課題と向き合うことで、事業承継の問題に触れざるを得なくなるため、その時点で事業承継対策の必要性を理解いただくアプローチが効果的であると述べている。

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