【難易度】★★★★★

~第3章 事業承継支援における専門家の動向~
第1節 中小企業診断士の事業承継支援状況
第1項 中小企業診断士の事業承継に対する取り組み状況
小規模法人の経営者が事業承継を行う際に相談した相手は、「公認会計士・税理士」が78.8%と圧倒的に多い一方、中小企業診断士はわずか1.8%と低い状況である(みずほ情報総研, 2018)。
税理士が多い理由は、これまでの事業承継が資産承継を中心とした納税対策中心であったことが考えられ(名南, 2016, p.32)、事業承継を行う企業にとっても、自社株移転を中心とした納税対策の相談が大半であり、経営承継については社長のこれまでの知識、経験をもとに後継者へ引き継ぐ傾向が多い。

このような実情を踏まえると、中小企業診断士の事業承継支援における貢献余地が少なく、中小企業診断士に対する期待がないのではないかとの見方も出てくるが、次項以降、事業承継対策の全体の流れから考察していきたい。
第2項 中小企業診断士の事業承継支援分野
下図は事業承継対策に取り組む際の全体像を経営承継と資産承継に分けて示したものである。

事業承継ガイドライン(2020, p.18)には、中小企業診断士が関与すべき業務として「経営課題に対するコンサルティング・助言、後継者育成に関する助言、事業承継時期を踏まえた中長期の経営計画の策定支援」と記述されている。
これは、自社の内部環境や外部環境分析、経営分析を通じた課題抽出、経営に関する各種計画等、図表 3^2の経営承継に関する業務範囲に該当し、経営承継支援において中小企業診断士が強みを発揮できる分野が多いことが把握できる。
経営の根幹である「経営方針・理念」、「経営戦略」、「経営革新」、「事業計画」などは、中小企業診断士が専門とする支援業務であり、企業の将来像を描く必要がある事業承継対策の導入部分においては、中小企業診断士が支援する最適な領域である(板橋, 2010, p.32)。
特に、後継者教育は最も重要であり、後継者が身につけておくべき能力として、現経営者は「リーダーシップの発揮(28%)」、「従業員との信頼関係(24%)」、「取引先との信頼関係(18%)」、「経営知識の習得(17%)」を考えており、後継者教育に必要なカリキュラムとしては、図表 3ー3を挙げている。

板橋(2010, p.42)は、上記の能力習得に向けて、「リーダーシップ育成」「社員との信頼関係構築」「社外関係者との信頼関係構築」「経営に必要な知識習得」の分野において、中小企業診断士としての支援の場が多いとしている。
また、中小企業診断士協会の支部調査研究事業にて「事業承継に関する研究」を実施した県が2005年から2010年の間で13県あり、当該調査を通じて「中小企業診断士の役割」について考察した内容を、下記にまとめた。(括弧内は「県名」「調査年度」)
・後継者候補が経営者としての資質をいかに備えているかが、事業承継成功のカギとなる。経営にあたり「ヒト」に関する支援業務は中小企業診断士の主な活動領域となる。新旧経営者、経営幹部がともに経営理念を明確にし、経営方針を見直し、社内外の経営環境分析に基づいた中長期経営計画の策定支援、また、新旧経営者間の意識のずれを埋めるためのコミュニケーション成立支援など中小企業診断士が果たす役割は大きい(沖縄県, 2007)。
・後継者教育については、テーマごとに各専門家と連携することで効果的な支援が可能となる。経営の基本となる部分は中小企業診断士、財務や税務については税理士、人事・労務関係は社会保険労務士や中小企業診断士、企業法務に関しては弁護士等が担うにふさわしい(山梨県, 2008)。
・限定された専門分野内でのみ事業承継支援に携わる他の専門家と比べて、中小企業診断士は企業経営全般に対してバランスよく支援できること、また、経営者と一緒に企業の将来像をともに明確にできる点が優れている(愛知県, 2008)。
・事業承継時に関心が集中するテーマは相続対策などの資産承継対策であることが多いが、経営全般に関わる中小企業診断士が窓口となり、コーディネイトすることでより円滑な承継が可能になることが確認された(滋賀県, 2008)。
・企業経営において、後継者をサポートしながら経営基盤構築のための助言が必要であり、中小企業診断士が担う役割は大きい(徳島県,2007)。
・中小企業診断士は事業承継支援において、①企業の現状分析、戦略の立案、問題解決などの「経営コンサルタントの役割」、②法務や税務面でそれぞれの専門家に橋渡しをする「コーディネータの役割」、③現経営者と後継者、また、その他関係者との共通認識が図れるようにするための「アドバイザーの役割」、④後継者が事業を引き継いだ後も的確な経営を行うための「後継者育成支援の役割」を担うことが求められる(岐阜県, 2009)。
上記調査の通り、事業承継における中小企業診断士の役割は大きいことが伺え、企業はゴーイングコンサーンが前提となっており、創業時から常に企業価値・魅力を高めることが重要であるため、事業承継はどの企業にも共通する経営課題(飯島, 2012, p.72)である。
第3項 中小企業診断士の事業承継支援における課題
前項までに見たように、中小企業診断士が事業承継支援において貢献できる余地が大きいにもかかわらず、相談相手として選ばれていない最も多い理由として、「経営全般や後継者育成に関しては、どこに(誰に)相談すれば良いのかをわかっていない経営者が多い。」があげられている(飯島, 2012, p.39)。飯島の調査によれば、実際は中小企業診断士の啓蒙やアピール、あるいは実績などが少ないからだと考えられ、中小企業診断士の課題として、事業承継支援しているというアピールを外部に積極的に発信していくことがあげられる。
また、前項でも取り上げた中小企業診断士協会の支部調査研究事業において、各県で実施された「事業承継における中小企業診断士の課題に関する調査結果」を下記にまとめた。(括弧内は「県名」「調査年度」)
・中小企業診断士は、最適な事業承継支援に関して様々な課題を抱えているものの、支援窓口としては最良の業務を担える(熊本県, 2006)。
・承継後間もない時期は経営者としての考え方や心構え等「内側」の部分の教育を支援する役割が重要であるが、十分に携われていない原因は中小企業診断士の啓蒙や実績、外部へのアピールが不十分であることが支援件数の少なさにある(栃木県, 2008)。
・後継者育成に関しては、どこに相談すればいいか把握していない経営者が多い。後継者育成や経営体制承継について、極めて有益なサポートをするのが中小企業診断士であり、中小企業診断士はもっと自分たちの存在をアピールしていく必要性がある(山形県, 2008)。
・事業承継支援に関われるフィールドは、考えている以上に広いことから、中小企業診断士は世間に向けて、これまでの実績や、専門分野を積極的に発信すべきである(愛知県, 2008)。
・事業承継には多くの対策があり、様々な専門知識が必要とされ、中小企業診断士同士、税理士などの専門家や、商工会議所等の支援機関と連携を図ることが重要である(香川県, 2008)。
・事業承継の入口部分における支援は、中小企業診断士が担うにあたり相応しい領域である。事業承継の早い段階から承継後の後継者支援までの長期に渡る関係構築が重要である(神奈川県, 2011)。
上記調査より総じて言えることは、中小企業診断士の専門分野が広いことからこそ、事業承継や後継者育成を専門として対応していることの外部発信が重要であり、専門家との連携を通じて事業承継支援における初期段階からの関与に繋がることが把握できる。
第2節 事業承継支援に携わる専門家の動向
第1項 各専門家の対応業務
今後、さらなる少子高齢化の進展、グローバル化や機械化によるビジネス環境の大きな変化に直面する中、事業承継分野に注目が集まっている。
藤田(2019)は、「時代に合ったビジネス展開」は経営戦略検討において最も重要な点であり、業種を問わず影響を受けるのは「少子高齢化」「機械化」「グローバル化」の3つであること、また、少子高齢化に伴う事業承継と相続関連ビジネスの増加により、多くの士業が目を向けており、市場競争が激化していくことは容易に想像できると述べている。
第二章で触れたように、社長の人口構造を踏まえると今後10年間で多くの社長が引退することになり、経営の経験や知識を持たないまま後継者が新社長として就任する企業が増加する可能性もある。経営者の高齢化に直面している現在、事業承継支援を含めた経営参謀に対するニーズは高まっていく(藤田, 2019, p.44)。
事業承継支援に携わる主要専門家の業務領域について甲田(2018, p.113)を参考として、図表 3 4にまとめて整理した。税理士・公認会計士は自社株評価や税額計算等、弁護士は法務面に関する業務、司法書士は書面作成や登記等の独占業務があるため、資格を保有していないとできない業務である。
一方、中小企業診断士が携わる業務に関しては経営計画から経営課題改善に向けた取り組み支援等であり、資格を保有していなくてもできるものである。独占業務が認められている他士業の業務は資産承継に係るものが大半であるが、中小企業診断士の業務領域は経営承継において最も重要な業務であるという特色がある。
また、他士業でも対応できる業務ではあるが、当該領域は他士業において資格取得時の試験科目には含まれておらず、体系的に習得している中小企業診断士の強みは大きいものといえる。

先の「図表 3 1 経営者が引退に向けて相談した専門家」で触れたように、中小企業の事業承継支援に関しては、相続税対策のイメージが強いため、税務面の相談ができる税理士、公認会計士が中小企業の身近な相談相手として位置づけられているが、円滑な事業承継を行うには資産承継の他、経営承継の対策も講じていく必要があり、税理士がどこまで経営承継に関わっているのかを把握することが重要である。
中小企業診断協会(2008, p.18)が40名の税理士を対象に行った調査によると、財務諸表には経営革新のポイントが詰まっているにもかかわらず、「売上原価の項目が販売費および一般管理費項目と混在している」、「減価償却費が正確に計上されていない」等の問題があるため、税金計算を目的に作成されているにとどまっていることが大半との結果になっている。
多くの中小企業の決算書は損益計算書をもとにした税金計算をベースとしており、貸借対照表は「青色申告の必要要件」という理由で作成されていることから、今後の課題として、一事業年度の利益を重視した損益計算書会計から、資産構成を重視した貸借対照表会計への脱却を図る必要性が述べられている。
また、経営革新において重要なことは、財務諸表をもとに経営戦略を検討すること、つまり「どのようなコア・コンピタンスを活用して、どのような事業ドメインで、どのようなビジネスチャンスを把握し、挑戦するか」であり、中小企業の大部分の会計・税務を見ている税理士が、その支援を行うことにより日本の中小企業の活性化が図られることが述べられている。これは税理士による経営承継支援に携わる重要性を示している。
事業承継における税理士活躍の方向性、理想像は示されているものの、現在、税理士が単独でどの程度経営承継に携わっているのか、また、他士業と連携しながらどの程度支援しているのかは著者が調査した範囲において、先行研究は見当たらなかった。
11,400名の税理士会員(2021年6月30日時点)を有し、租税正義の実現に向けて中小企業を支援するTKC全国会では、「特例事業承継税制対応プロジェクト」を2018年に発足させ、中小企業の事業承継支援のための活動指針を掲げている(TKC全国会, 2018, p.5)。
その中では、中小企業庁の「事業承継ガイドライン」で示された中小企業の事業承継「5つのステップ」に基づいて、税理士がどのようなシステム、ツールを用いて支援をするのかが明示されている。その中では、経営承継に関わる「経営状況・経営課題等の把握(見える化)」「事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)」「事業承継計画」についても支援している状況が伺える。

また、「特例事業承継税制適用支援フロー」においては、法人の事業承継と密接な関係にある個人の相続対策も支援するための流れを示しており、ここでも資産承継に関する支援(自社株評価や相続税試算)の他、事業承継計画策定や特例承継計画作成等の経営承継に関する業務に取り組んでいることがわかる。
図表 3ー6 特例事業承継税制適用支援フローとTKCシステム

出所:TKC全国会(2018)「中小企業事業承継支援のためにTKC会員が取り組む劇活動」
TKC全国会のHPには、「中小企業の経営において多様化・複雑化が進展する中、①税務、②会計、③保証、④経営助言の4分野において専門性のある税理士が経営者の相談相手として支援することが期待されている。」との記載があり、経営助言にも取り組む趣旨が明示されている。
(「TKC全国会のご紹介」2021年12月8日閲覧)
「中小企業経営力強化支援法(2012年8月施行)」では、税理士を「経営革新等支援機関」として公的な支援機関に位置づけ、中小企業の経営力強化を支援するための担い手と定められた。
TKC全国会では会員税理士に認定支援機関に対して、申請および登録することを推奨しており、2020年6月26日現在で認定支援機関の登録数36,114機関のうち、税理士・税理士法人等は30,343機関となっている。このうちTKC会員の登録数は、税理士・税理士法人等の約30%を占めており(8,842機関)、経営改善計画策定支援に積極的に取り組んでいる状況が伺える。
第2項 各支援専門家の支援スキームから見る課題
現在の事業承継支援は、商工会議所・商工会、地域金融機関等の身近な支援機関をはじめ、中小企業診断士、税理士、弁護士等の専門家が、それぞれの専門分野について支援に関与し、その役割を担っている。
図表 3ー7は中小企業の事業承継を支援する仕組みを示したものであるが、その他にもよろず支援拠点をはじめとする国の支援機関や、民間の事業承継支援団体、M&A仲介会社等、多くの支援機関が存在している。

複数の事業承継支援専門家がいる中でも、中小企業庁「事業承継ガイドライン」(2016, p.43)においては、「中小企業の事業承継に際して、顧問税理士は専門的な知識だけではなく、企業の経営実態や歴史、社内の人間関係等も把握しているため、円滑な事業承継対策を検討するにあたり貴重な存在である」と記載されている他、大西(2017, p.88)も「税理士は事業承継問題において最初に関わることが多く、事業承継を円滑にするためには税理士とのネットワーク構築が重要である」と述べている。
中小企業にとって最も身近な相談者である税理士との連携は中小企業診断士にとっても重要になるといえる。
第3項 中小企業診断士と専門家間連携の現状と課題
事業承継対策において、税務、経営、法務、労務に関する様々な課題が生じ、事業承継支援は一人の専門家だけでは対応できないため、各分野に対応できる専門家の協業が不可欠である(大西, 2017, p.92)が、各機関の支援は、各企業からの個別の要請に対して、単発の支援を行っている次元にとどまっており、各支援機関が連携しながら各ステップの切れ目ない支援がなされているとはいえない状況にある(中小企業庁, 2016, p.12)
また、今までの事業承継の取り組みは、資産承継の取り組みが中心となり、そのため関与する専門家は税理士や公認会計士などの専門家が多かった(みずほ情報総研, 2018)。中小企業診断協会神奈川県支部が2012年に行った研究によると、事業承継における経営承継では、経営の道筋を立てて、企業の魅力を高めるため、経営理念、事業戦略、事業計画、企業体質など経営状態を総合的に診断・検討することが必要であり、経営の後継者を育てることにより将来の企業発展に繋がるものであり、資産承継よりも経営承継が重要であるとの結論に至っている。つまり、複雑かつ広範囲な事業承継支援において、各専門家が連携しながら「資産承継」と「経営承継」をトータルで支援していくことが重要である。
特に、前章でも触れている通り、経営承継への早期の取組みは重要であり、経営承継を中心とした円滑な事業承継のためには、早期に着手することの重要性が高く、そのコンサルティングにおいて中小企業診断士の役割が期待される。(飯島, 2012, p.46)
事業承継支援にあたっては、経営全般や財務、法務など幅広い知識が必要であり、現社長や後継者の心情をくみ取りながら対応することが求められる難易度の高い仕事である。中小企業診断士は、過去の経歴も多様であり、専門領域が重複しない傾向があるからこそ、中小企業診断士は他の資格専門家とは異なり、専門家同士で連携しながらコンサルティングを進めることができる。事業承継は、幅広い知識や経験が求められ、一人の専門家だけでは対応しきれないことも多く、事業承継をバランスよく進めるには、中小企業診断士によるコンサルティングが望ましい(「中小企業診断士による社員への事業承継コンサルティング」 2021年12月8日閲覧)

